ぷくぅ、となっている。
 小毬が。
 怒っているらしい。
 さすがに気になって、鈴は声をかけてみた。
「・・・・・・どーしたんだ? こまりちゃん」
「あ、鈴ちゃんー」
 いつもよりワントーン低い声で迎えられた。
「怒ってるのか?」
「んー、そうだねぇ。怒ってるよー」
 小毬は怒ってるというよりは、拗ねた顔で、ちらりと後ろのほうを振り向いた。
 鈴も視線をその先に向ける。
 理樹と目が合った。
 何やら手を合わせてくる。
 意味がわからない。首をかしげて、小毬に向き直った。
 理樹はため息をついて机に突っ伏してしまったが。
「理樹が何かしたのか?」
「そーなんだよ! 聞いてよ鈴ちゃんー!」
 小毬ががばっと鈴に詰め寄った。
「な、何だ!?」
「理樹君ってばね、私のこと・・・、私のこと・・・、うううううう」
 今度は泣きそうな顔になった。
 鈴、すぐさま理樹を睨み付け、駆け出す。
「理樹いいいいいいいいいいいいい!!」
「うわ何鈴!?」
「黙って死ねえええええええええええ!!」
 なかなか派手な音を立てて、鈴のハイキックが非常に珍しく、理樹相手に決まった。
「うお!? 理樹大丈夫か!?」
 真人が慌てて腰を浮かせる。謙吾も大慌てで理樹に駆け寄った。
「いかん、喰らい慣れないものを受けたから目を回している! 保健室だ、真人!」
「お、おお! しっかりしろ理樹! 筋肉がついてるからな!!」
「古式、ドア開けてくれ!」
「は、はい!」
 謙吾と真人が理樹を担ぎ上げて運んでいった。
 後には、
「・・・・・・い、いかん、やりすぎた」
 ついつい全力、いや全力以上で蹴りを叩き込んでしまった鈴と、
「・・・ふぇ?」
 事態に全くついていけなかった小毬が残される。
 一瞬の間。
「ふわわっ、理樹君だいじょーぶー!?」
「いえ、もういません」
「ついでに言うと完全に大丈夫じゃないな」
 美魚と唯湖が近寄ってくる。
「鈴君、いったいどうしたのだ」
「いや、理樹がこまりちゃんを泣かせたっぽいからつい」
「あーうー・・・。その気持ちは嬉しいけど〜・・・」
「少々力を入れすぎましたね」
「当たり所も良すぎたようだ」
「・・・す、すまん」
 小さくなる鈴である。
「それで、小毬さんは直枝さんに何をされたのですか?」
「う、うん〜・・・、あのね」
 思わず息を呑む鈴。
「ほっぺたをむに〜ってされて・・・、ふっくらしてるねって・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 妙な沈黙が落ちた。
 徐に、唯湖が小毬の頬をつまむ。
「ふぁ、ひゅいひゃん?」
「・・・うむ」
 唯湖は頷いて、
「別段以前と変わらんようだが・・・。もしや、太ったと思えるようなきっかけでもあったのか?」
「と、特には無いけど・・・。理樹君、すごくいぢわるな顔して言うから」
「おそらく、からかわれましたね」
「・・・が、がーん、そうだったのかー・・・」
 落ち込んでいる小毬だが、今度は徐に、美魚が小毬の胸に手を当てた。
「ひあああ!? み、みおちゃん何するの〜!?」
「・・・大きくなった気がします。大きくなった気が・・・」
 呟きながら、何だか瘴気をまとい始める美魚。
 そんな彼女をあっさりスルーして、唯湖が涎でも垂らしそうな顔で詰め寄った。
「何!? 小毬君、私にも揉ませろ」
「だ、だめだよ〜!!」
 胸を守るように手を交差させながら、思いっきり小毬は唯湖から距離を取った。
「くるがや、こまりちゃん苛めるな!」
「む、小毬君の騎士が登場か。仕方あるまい・・・」
 言いながら、唯湖は鈴を見据えると、凄まじく邪悪な笑顔を浮かべた。
「では、鈴君のを揉むとしようか」
「ふにゃー!?」



「理樹のせいで酷い目にあったぞ」
「いや、人を気絶させておいて言うことじゃないよね」
 野球練習前、鈴は理樹に愚痴る。
「瘤できてるんだよ・・・? もう・・・」
 理樹は鈴に蹴られた部分を撫でながら、ため息。
「理樹君だいじょーぶ? 痛いの痛いのとんでけー」
「は、恥ずかしいんだけど、小毬さん・・・?」
「うんー、知ってるー」
「・・・地味に仕返しなのか」
「そうゆーことー。あんまりからかっちゃだめですよー」
 いつも以上にニコニコしながら理樹の頭を撫で続ける小毬。
 理樹はため息ひとつ。
 逃れようとしないところを見ると、どうやら甘んじて受けるつもりらしい。
「・・・理樹は」
「ん?」
「理樹は妙にこまりちゃんを苛めるな。こまりちゃん嫌いなのか?」
「え、えええ!? そ、そうだったの・・・?」
「んなわけないでしょ!?」
 落ち込みかける小毬。慌てて否定する理樹。
「じゃ、好きなのか?」
「な、ななな、なんてこと聞くんだよ鈴は!?」
 顔を赤くして、どもりながらも追求をかわそうとする。
 が、今日の鈴は異常に手ごわかった。
「嫌いじゃないなら好きってことじゃないのか?」
「何その二元論!?」
「り、鈴ちゃんその辺で〜・・・」
 見れば小毬まで顔を赤くしている。
「いやダメだ。理樹が何でこまりちゃん苛めるのかはっきりさせないといかん」
「ぁぁぅ・・・、それはその、私も知りたいけど・・・」
「・・・・・・う」
 4つの目が理樹を射抜く。一対は誤魔化しを許さない目で、もう一対はかなり不安そうな目で。
「理樹、答えろ」
「理樹君・・・?」
「え、えと・・・、好きか嫌いかなら、好きっていうしか無いじゃないか・・・!」
 耳まで赤くして、理樹はそっぽを向いて答える。
「ほんと!? よかったよ〜」
「好きなのに苛めるのか。意味わからんな」
「意味わかんないなら聞かないでよ!!」
 叫んで、それが最後の力だったかのように力なく崩れ落ちた。
「・・・ぁー・・・、今日はもう帰る・・・」
「何だ、具合悪いのか?」
「悪くさせられたんだよ・・・」
「そうか、大変だな」
 全く判っていない鈴の返答に、もはや溜息しかつけずに、理樹はふらふらと歩いていく。
「え、えーっと・・・。私、理樹君送ってくよ」
 鈴にそう告げて、小毬が理樹の後を追っていった。
「・・・んー」
 並んで歩いていく理樹と小毬を見送りつつ、鈴は首をかしげる。
 三人のやり取りを遠巻きに、ニヤニヤしながら見ていた恭介が近寄ってくる。
「どうした? 鈴」
 兄の問いかけに、鈴は腕組みをして、
「考えてみたらこまりちゃんもわからん。苛められてるのに何で一緒にいるんだ?」
 恭介、失笑。
「さーな。好きだからじゃないのか?」
「・・・苛められるのが好きなのか?」
「それどこのあやだよ」
 言った瞬間、恭介の頭にグローブが投げつけられた。
「いって!?」
「誰がMよ誰が!?」
 聞こえていたらしい。
「あなたに決まってるでしょ」
 が、直後に佳奈多に切り落とされた。
「ほほう、あや君はMなのか。ではおねーさんが虐め倒してやろう」
「うげ!? は、葉留佳助けて!」
「えー!? てかはるちん巻き添えコースー!?」
 そのまま何故か巻き添えにされた葉留佳と一緒に、唯湖から逃げ回っている。
 グローブを投げつけられた文句の行き場を無くして、恭介は頭を掻いた。
「・・・てか、鈴」
「何だ?」
「お前、なんつーかこう、理樹と小毬が一緒に居て何か思うことないのか?」
「ん?」
 鈴は腕組みをして、んー、と考え込むと。
「・・・うん、ある」
「ほう」
「楽しそうだ」
「・・・ああ、うん、まぁ、そうだろうな」
 期待した答えとは大いにズレていて、恭介脱力。
「でもなんか・・・。むう」
 が、また考え込んだ鈴に、少し笑う。
「ま、ゆっくり考えろ」
「意味わからん」



 翌日。
 にににこしている。
 小毬が。
 何か良いことがあったらしい。
 ちょっと気になって、鈴は声をかけてみた。
「・・・・・・どーしたんだ? こまりちゃん」
「あ、鈴ちゃんー」
 いつもより明らかにご機嫌な声で迎えられた。
「嬉しそうだな」
「んー、そうだねー。嬉しいよー」
 小毬はほんとに上機嫌だ。
 何気なく視線を感じて、鈴は周囲を見回すと、理樹と目が合った。
 疲れた顔で首を横に振られた。
 意味がわからない。首をかしげて、小毬に向き直った。
 理樹は昨日と同じく、ため息をついて突っ伏したが。
「理樹が何かしたのか?」
 昨日も同じ質問をしたな、と思いながら、そう聞いてみる。
「えへへ〜、えっとね〜」
「ふむ、そういえば昨日は、ただ送っていくだけにしては少々遅かったな。・・・ほほう」
 唐突に唯湖が現れていた。
「わふ!? 小毬さん何かあったのですかー!?」
「えーっとねー」
 クドにまで問い詰められ、小毬は答えを言おうとするが。
「いや待て、当ててやろう。小毬君は理樹君を部屋まで送り届けた」
「うん、送ったよ」
「そこまでなら誰でもわかるぞ」
 唯湖の推理に小毬があっさりと頷き、鈴が苦情を入れる。
「まぁ待て。そこで、理樹君は小毬君を部屋に招きいれた・・・。いや、小毬君が押し入った」
「ふぇ? え、えーっと・・・、押し入ったつもりは・・・」
 当たらずとも遠からずらしい。
 唯湖はそこで、ろくでもない妄想をしている顔になって、
「積極的に迫る小毬君に堪らなくなった理樹君は、即座に小毬君を押し倒し・・・」
「ふ、ふぇええ!?」
「理樹いいいいいいいいいいいいい!!」
「うわ何鈴!?」
「黙って死ねえええええええええええ!!」
 なかなか派手な音を立てて、昨日に引き続き理樹に鈴のハイキックが決まった。
「うおお!? 理樹大丈夫か!?」
 真人が慌てて腰を浮かせる。謙吾も大慌てで理樹に駆け寄った。
「いかん、喰らい慣れないものを受けたからまたしても目を回している! 保健室だ、真人!」
「お、おお! しっかりしろ理樹! 筋肉がついてるからな!!」
「古式、ドア開けてくれ!」
「はい!」
 謙吾と真人が理樹を担ぎ上げて運んでいった。
 後には、
「・・・・・・悪は滅びた」
「り、リキー!?」
「ほわあああ!? 鈴ちゃんやりすぎだよ!?」
 何故かやり遂げた顔をしている鈴と、慌てまくる小毬とクドが。
 唯湖は相変わらず悠然と佇んでいたか。
「で、実際のところ、小毬さんのご機嫌の理由は何なのです?」
「ふぇ?」
 美魚に尋ねられ、小毬は楽しそうに笑うと、
「昨日いっぱい恥ずかしがる理樹君を見ちゃったんだー」
「何!? それはどういうことだ、コマリマックス」
「うん、理樹君がね、昨日鈴ちゃんに問い詰められて言った事、すっごく嬉しかったから、つい何回も繰り返しちゃってー」

 以下簡潔に再現VTR。
「そっかー、理樹君、私のこと好きでいてくれるんだー」
「・・・小毬さん、聞かなかったことにしよう」
「えー? ダメだよ、すっごく嬉しかったんだからー。えへへ〜、理樹君に好きだって・・・、えへへ〜」
「ああもう・・・、勘弁してください・・・」
 以上。

 理樹もまさか気遣って送ってくれた相手が、一番性質の悪い刺客だったとは思わなかっただろう。
「それはまた、強烈な苛めだな・・・」
 恥ずかしい呼び名で呼ばれ続けている唯湖は、少々同情したようだ。
 そのコメントに、小毬はちょっぴり舌を出して悪戯っぽく笑う。
 どうやら小毬自身も、たまには理樹をいぢめてみたかったらしい。
 が、ここで小毬の最大の誤算。
「・・・何だ、こまりちゃんも理樹苛めてたのか?」
「ふえ?」
「こまりちゃん、ひょっとして理樹嫌いなのか?」
「ふええええ!?」
「おおっと」
「これは、先日の逆転現象ですね」
「どきどきです・・・」
 微妙に空気が読めない鈴の追求の的にされてしまった。
 外野、助ける気、無し。
「そ、そんなことないよー? うん、そんなことないないー」
 汗一筋流しながら、小毬は必死に答える。
「じゃ、好きなのか」
「ふえええ!?」
 パニックになりそうになっている小毬。
「り、鈴さん、ここクラスメイトの方々も居ますから」
 が、ここで唯一の良識派、みゆきが辛うじて仲裁に入ってくれた。
「む・・・」
 みゆきに言われ、クラスメイトを見回す。
 追及を受ける小毬がどんな答えを返すのか、皆興味津々といった風情だ。
「ぁぁぅ〜・・・」
「・・・仕方ない。この場はあきらめよう」
 さすがにこの環境は可哀想だと思ったのか、鈴はとりあえず引いてくれた。



 小毬にとって幸運だったのは、鈴が次の授業で当てられた問題に四苦八苦して、追及の件を忘れてしまったことだろう。
 理樹に「時々、信じられないくらい運が悪い」と評される小毬にしては、驚くべき戦果かもしれない。
 そんな時間を経て。
 保健室から戻ってきた理樹に駆け寄る小毬を見て、鈴は首をかしげる。
 またしても「痛いの痛いのとんでけ〜」をやろうとする小毬に、さすがに衆人環境の中では甘んじて受ける気にはならないのか、逃げ出そうとする理樹。
 とはいえ、別にどちらも本気というわけでもなく、傍から見れば猫がじゃれあっているようにも見える。
「ん〜?」
 ちくん、とした気持ちに首をかしげる鈴。
 理樹は割と必死に小毬の手を押しとどめようとしている。
 対する小毬はちょっとお姉さんぶった顔で、「おまじないも結構効果あるんだよ〜」と言って引こうとしない。
「仲がいいな、相変わらず」
 唯湖が微笑ましく見守っている。
「あれでまだ恋人未満というから恐れ入りますね」
 みゆきも苦笑。
「鈴さん、何か不満そうですね」
「ん? そうか?」
「何だ? 妬いてるのか? 鈴君」
 唯湖に言われて、鈴はまたしても首をかしげる。
「妬く・・・。あたしは妬いてるのか?」
「いや、それをおねーさんに聞かれても困る」
 唯湖、瞑目して一言。
「というか、妬くって何なんだ?」
「り、鈴さん、そこからですか?」
 みゆきもこれにはさすがに汗一筋。
「妬く、即ち、嫉妬、ですね」
「しっと?」
「はい」
 唐突に、美魚が注釈を入れてくる。
「主に、大好きな人を他の人に取られてしまった時に感じます」
「なるほど」
 鈴も頷く。
「気分的には、あまりいい物ではないですね。気分が悪いというか、淀むというか」
「ちくん、とするのか?」
 鈴の言葉に、美魚は少し驚いた顔をして、頷いた。
「ええ、そのような感じです。覚えがありますか?」
「うーみゅ・・・」
 それには答えず、鈴は腕組みをして考え込む。
「お前ら、その辺にしてやってくれ」
「棗先輩」
 唐突に頭を掻きながら現れた恭介に、みゆきが驚いて声を上げる。
「こいつだって自分で考えてはいるんだしな」
「うわ、ばか、やめろ、頭ぐしゃぐしゃするなー!!」
 鈴の頭をぐしゃぐしゃしながら、恭介は苦笑する。
「まぁ、確かにそうだな。そこから先は鈴君自身で考えるべきところだろう」
「言われなくてもそのつもりじゃ、ぼけー!」
 言いながら、恭介の手を払いのける。
 恭介は手を引っ込めて、肩をすくめた。
「で、いいのか? 理樹と小毬、まーだ話してるぞ?」
「む?」
 何を話しているのかは聞こえてこないが、たわいない話でもしているのだろう。
 時折理樹がため息をついて見せたり、小毬がにこやかに笑ったりしている。
 鈴はそんな姿を見て、またちくん、とした気持ちを感じた。
「・・・むー」
 微妙な表情になる鈴に、周囲の仲間たちは顔を見合わせて苦笑した。



 さて、鈴の心境だが。
 鈴にしてみれば、理樹と小毬が仲良くしているのは別に嫌なことではないのだ。
 だから、恭介に問われてもあっさりと「楽しそうだ」と答えられたわけで。
「んー・・・?」
 ちくん、とはする。
 でも、嫉妬なのかと聞かれると、よくわからない。
 一人部屋でベッドに横になりながら、ぼんやりと考える。
 気分が悪い、とは違う気もする。
 仲がいいのを見ててちくん、とはした。
 だが、じゃあケンカしてたら、と思うと。
「それは嫌だ。絶対嫌だ」
 理樹も小毬も自分にとってとても大切な人なんだから、仲良くしてくれてた方がいい。
 いいのだが。
「むー・・・」
 いろいろ頭を悩ませて見る。
 理樹と自分。
 小毬と自分。
 理樹と小毬。
 理樹と他の誰か。
 小毬と他の誰か。
――主に、大好きな人を他の人に取られてしまった時に感じます
 美魚の言葉が脳裏をよぎる。
「・・・・・・!」
 唐突に、鈴は飛び起きた。
「そうか、そうだったのか・・・!」
 どうやら、何かに気づいたらしい。



「理樹君おはよ〜」
「あ、おはよう、小毬さん」
 日直で早く出てきた理樹は、同じく登校してきた小毬に挨拶を返す。
「そーだ、絵本、新しいのできたんだよ〜」
「あ、ほんとに? じゃあ、昼休みに見せて」
「うん、おっけ〜ですよ〜」
 そんな他愛無い話をしつつ、教室へ向かおうとして、
「こまりちゃん、理樹!」
 後ろからかかった声に、二人そろって振り返った。
「鈴」
「あ、鈴ちゃんおはよー」
「早いね・・・。何か用事?」
 小毬はいつもどおりの笑顔で挨拶を返し、理樹は不思議そうに鈴を見る。
 対する鈴は、何か妙に思いつめた顔。
「こまりちゃん、話がある」
「ふぇ?」
 首をかしげる小毬の横で、理樹は頬を掻いて、
「えーっと、なら僕はいない方が?」
 気を使って、そんな風に言ってみた。
「別にいてもいいが」
 が、あっさりと鈴にそう返されてしまう。
「・・・??」
 いまいち用件が読めなくて、とりあえず理樹は傍観に徹することにした。
「話って?」
「うん、あのな」
 鈴は頷いて、
「あたし、こまりちゃんが好きだ」
「うん、私も鈴ちゃん大好きだよ〜」
 割とよくあるやり取りである。
 微笑ましく見守っていた理樹。
 が、次の鈴の発言で凍りついた。
「じゃあ、理樹はこまりちゃん好きだって言ったが、こまりちゃんはどうなんだ?」
「ふえええ!?」
 小毬も硬直。
「え、えーと・・・、えーとぉ・・・」
 横目でチラチラと理樹を見る小毬。理樹もさすがに困って目を逸らした。
 逸らした先で、鈴と目があった。
「・・・何?」
 妙に勝ち誇った目をしていたので、気になって聞いてみた。
「理樹、聞いたか?」
「え?」
「あたしは大好きだって言ってもらえたぞ」
「・・・・・・」
 理樹の頬が引きつった。
「・・・あ、あの、鈴ちゃん? 理樹君?」
 妙な空気が立ち込めている。
 小毬はそれに戸惑って、二人の顔色を伺ってみたが。
「・・・どういう意味かな? 鈴」
「どうもこうもない。あたしの勝ちだ」
「そう・・・」
 笑顔だ。
 理樹が怖いくらい笑顔だ。
 対する鈴は不敵な表情。
「ねぇ、小毬さん?」
「は、はいっ、何でしょう!?」
 何故か敬語になる小毬である。
 対する理樹は、相変わらずの怖いくらいの笑顔で一言。
「小毬さんは、僕のこと好きじゃないの?」
「ふええええ!?」
 悲鳴を上げる小毬の前に、鈴が立ちはだかった。
「理樹、負け犬は引っ込め」
「鈴、鈴こそ話の邪魔なんだけど」
 火花が散っている。
 と、
「あ、あの・・・、私、二人とも大好きだよー・・・?」
 小声で言った小毬の一言に、二人は一度小毬に視線を向けて、それからまたにらみ合った。
「理樹、お前に小毬ちゃんは渡さない・・・!」
「そうはいかないよ、鈴・・・!」
 かなり方向性を間違った何かが、今この瞬間に始まったらしい。
「う、うああああん、何だかよくわかんないけど誰か助けて〜〜〜」
 当事者の小毬をどこか遠くに置いてけぼりにしたままに。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・恭介さん、ご愁傷様です」
 様子を伺っていて、そのまま床に突っ伏してしまった恭介のそばに屈んで、美魚が本当に同情したように声をかけた。
「・・・ちくしょう、こんなのってねぇよ・・・。何なんだよこれ・・・、何なんだよ・・・! やっと、やっと鈴が理樹への気持ちに気づくのかと思ったのに、これはねぇよ・・・!!」
「・・・直枝→神北←棗(妹)・・・、アリかもしれません」
 ぎゃーぎゃー言い争いをはじめた理樹と鈴におろおろする小毬を見ながら、美魚はそんな評価を下したのだった。





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