Briefing Team Kyosuke
 クドを抱えた唯湖、佳奈多を振り切った恭介、そしてあやのトラップを辛うじて掻い潜った真人。
 恭介チーム4人が4人共、再び一同に会する。
「全員無事だったか」
「かなり危なかったがな。特にクドリャフカ君が」
「わふー・・・、申し訳ないですー」
 相変わらずのお姫様抱っこのままだが。
「ところであのー、下ろしていただけないでしょーか?」
「うむ、却下だ」
「わふー!?」
「というのは冗談だ。ほら」
 最後まで唯湖に振り回されつつ、クドは久しぶりに大地に足をつけた。
「よし、報告を聞こう」
「おう、朱鷺戸んとこの陣地見つけたぜ」
「何!?」
 恭介、唯湖、クドが驚いて真人を見やる。
「な、何だよ」
「いや、まさかお前からそんな戦果を聞けるとは思わなかった」
「大金星だな、真人少年」
「すごいのですー!」
「ありがとよ」
 素直にほめ言葉と受け取ったらしい。
「場所は裏庭だ。けど、朱鷺戸の奴、やったらめったら罠仕掛けてやがるぜ?」
「罠か・・・。へっ、滅多にやらねぇけど、トラップなら俺だって得意だぜ!」
 恭介が面白そうに笑う。
「けど、そうか、トラップか・・・。俺たちは知ってるが、笹瀬川のチームはどうだろうな」
「知らないだろうな。だが、私たちが直接佐々美君や美魚君に伝えたところで動かないだろう」
「間違いなくな。さって、この情報をどう使うかな・・・」
 悪巧みをする恭介と唯湖を見上げて、クドは困った顔になる。
「お二人とも、そういう時はすごく楽しそうなのです・・・」



 Briefing Team Sasami
 こちらは二箇所に判れていた。
『そうでしたの、助かりましたわ』
「いえ。どういたしまして」
 ビームライフルでの援護に対して礼を言われて、美魚も電話の向こうに頭を下げる。
「ですが、これで私の居場所もばれてしまいました。また移動することになりますね」
『そうですわね・・・。敵の陣地もわかりませんし・・・』
『ささこは捕まりかけたしな』
『う、うるさいですわ!』
 電話の向こうで言い争いが勃発しそうになっている。
「とりあえず、後にしてくださいね。陣地ならひとつ検討は付いています」
「む、そうなのか?」
 黙って聞いていた謙吾が驚いて口を挟む。
「そもそも古式さんと直枝さんが同じポイントにいたことが不自然です。待ち伏せするにしても、少々固まりすぎな感がありますね」
『同じ、でしたの?』
「ええ。笹瀬川さんは見えなかったでしょうけど、古式さんも直枝さんも同じ教室から飛び出してきました。推測が正しければ、直枝さんのチームの陣地は、あの空き教室です』
 推測と言いつつも、美魚はかなり自信を持っているようだ。
「ですが、不安要素として、三枝さんが未だに確認できてません」
『全くだ。はるかの動きがわからんのはこわい』
 鈴の同意も帰ってくる。
「少し、様子を見なければならないかもしれません」
『陣地がわかっていますのに・・・』
「だからこそ、ですね。鬼チームも自陣がばれた事に気づいているはずです」
 美魚は言いながら、先ほどとは違う場所から、南校舎の2階、空き教室のあたりを見る。
「そろそろ情報戦も展開していく頃合ですね」




 Briefing Team Kanata
「佳奈多そこでストーップ!!」
「え?」
 いきなりあやに静止されて、佳奈多は足を止める。
「何? どうしたのよ」
「ごめん、その足元、トラップ張ってんのよね」
 あわてて佳奈多はそこから飛びのいた。
「あ、あなたね。ここ一応人来るのよ?」
「大丈夫大丈夫。引っかかったらすぐ助けてあげるつもりだから」
「・・・はぁ」
 頭を抱えて、佳奈多は周囲を見回した。
「小毬さんは?」
「小毬? 真人君探しにいったけど・・・」
「ただいま〜・・・。やっぱり見つけられなかったよ・・・」
 ちょうど肩を落としながら戻ってきた。
 そのまま歩いていこうとするのを、佳奈多が襟首を掴んで引き止める。
「ほわ!?」
「小毬さん、ちょっと待って」
「んきゅっ!? か、かなちゃん、くび〜・・・」
 結構思いっきり掴んでしまったらしく、首が締まっているらしい。
 慌てて手を離した。
「ご、ごめんなさい・・・」
「はう・・・。それでどうしたの?」
「その先、トラップあるらしいわ」
 小毬もびっくりして、佳奈多の傍まで飛びのいた。
「ま、また宙吊り!? それはいやだよ〜・・・」
「・・・一回踏んでるのね」
「いやー・・・、あはは」
 あやは誤魔化し笑い。
 そこで、小毬が首をかしげた。
「でもあやちゃん。何でこっち来ないの?」
「・・・そういえばそうね。安全なルートとか把握してるんでしょ?」
「・・・・・・」
 あや、沈黙。
「あなた、まさか」
「ふ、ふふふ、そーよ! トラップ作りすぎてここから出られなくなってるのよ! 相手捕まえる為のトラップで自分捕まえてるなんてね、ほんと間抜けだわ! 滑稽だわ! 笑えるでしょ!? いいわよ笑いなさいよ! アーハッハって大声上げて笑うが良いわ!! アーッハッハッハッハ!!」
 自虐し始めるあやに、佳奈多は顔を手で覆って、一言。
「この馬鹿・・・」
 小毬すら、驚きというか、呆れというか、そんな顔で言葉も出ないらしい。
「小毬さん、この馬鹿は放っておいて、捕まえに出るわよ」
「え、えーっと・・・、いいのかなぁ?」
「あ、ちょっと、助けてよ!」
「あなたはそこで番してなさい」
 あやはもう完全に隔離してしまい、小毬と佳奈多で情報交換。
「かなちゃんの方は、何かあったの?」
「鈴さんと棗先輩と遭遇したけど、どっちも逃がしたわ。戦利品みたいなのがこれ」
 逃がした時にかぶせられた恭介の上着を示す。
「置きっぱなしにもできないから、とりあえず置きに着たんだけど・・・」
 じろり、と距離の離れているあやを睨み付ける。
 小毬はその佳奈多に困り笑いを浮かべながら、
「だったら、私が教室に置いてくるよ。恭介さんもよく来るし」
「そうね。お願いするわ」
「うん」
「それで、小毬さんの方は?」
「あ、うん、ここに真人君が来たんだけど、逃がしちゃったんだよ」
「ということは、私たちの陣地は棗先輩のチームにはバレたわけか。直枝達の陣地、私たちでも調べたほうがいいかもね」



 Briefing Team Riki
「さーって、どうしようか」
 美魚あたりは自分たちの陣地がここだろうと気づいている。
 理樹はそう踏んでいる。
「はいはいー! 陣地を変えるとか!」
「ルール違反だってば」
 葉留佳の意見にため息交じりで返答を返して、理樹は教室の片隅から、なにやらロープを取り出した。
「直枝さん、それは?」
「逃げる側に回るにしても、追う側に回るにしても、これあると便利だからね」
 言いながら、空き教室の窓を開けてロープを垂らす。
 窓から外へ降りるつもりなのだ。
「午前中に置いておいたんだ」
「用意いいなぁ、理樹君」
「恭介と勝負するんだ。このくらいはしないと」
 最近の理樹は恭介に対して、「味方になってもらいたい」より、「敵として競い合いたい」という気持ちの方が強いらしい。
「葉留佳さんも出番だよ」
「おお、ついに!?」
「そろそろね。守りは・・・」
「私が残りましょうか」
 みゆきが笑って答える。
「謙吾対策?」
「それもありますけど、直枝さんは自由に動けたほうがよさそうですし」
 その言葉に、理樹は苦笑する。
「そだねー。今日の理樹君なんかこう、詐欺師って感じだもん」
「さ、さぎし・・・!?」
 絶句して、それから理樹は肩を落として。
「せめて策士って言って・・・」
「やはは」
 あまり反省していなさそうな笑顔で葉留佳は頭を掻く。
 ため息を一つついてから、理樹は気を取り直して、
「それじゃ、先に出るよ。古式さん、あとでロープ引き上げておいてね」
「わかりました」
 理樹はそうして、ロープを使って外へと降りていった。
「葉留佳さんはどうします? ・・・何されてるんですか?」
「え? いやほら、私が留守中におねーちゃんが私に化けて来たら厄介かなーって思ってサ。髪型変えちゃおうかとー」
 髪を解いてあれこれしながら、葉留佳が答える。
 みゆきはくすっと笑って、
「では、お手伝いしましょうか」
「おお、さんきゅーみゆきち!」



 そして。
 本格的に行動を開始した理樹チームを交え、4つ巴のバトル、その本番が始まる。



 南校舎の教室側から降りれば、グラウンドが見渡せる位置に出る。
 当然、そんな遮蔽物のない場所を走り回る者がいるはずもないし、ならば監視する必要もない。
 だからこそ、理樹はそんな場所を堂々と駆け抜ける。
 まずは中庭に出る。そこから北校舎に乗り込んで、まずは美魚がいた場所を探るつもりだ。
 と。
「あ、理樹君・・・」
「あ、小毬さん・・・」
 小毬がいた。
 互いに足を止めて、二人とも曖昧に笑う。
「そっち、調子はどう?」
「う〜ん・・・、まだあんまりー。理樹君達は?」
「こっちも似たような感じ」
 互いに笑う。
「理樹君、私達負けないよ〜?」
「うん、こっちだって」
 そう言って、また後で、と言葉を交わしてすれ違う。
 お互い頑張って、は無かったが、そのくらいのことは言わなくても判ることだ。
 微笑して、理樹は携帯を取り出した。

 To 謙吾
  これから北校舎に乗り込む。覚悟はいい?

 そのメールを打ち込み、送信。
 そして、理樹は宣言どおりに北校舎の中へと足を進めた。



 一方、メールを受けた謙吾はその意図をどう取るか、判断に悩んでいた。
 ブラフである可能性。そしてその裏をかいて本当に今この校舎内にいる可能性。
 ひとまず美魚に転送する。
 それからすぐに、美魚から着信が入った。
『お待たせしました』
「ああ。どう見る?」
『そうですね・・・。やはり、どちらとも取れるとしか』
「そうだな・・・。とりあえず、一階から探りつつ回ってみよう」
『お願いします』
「鈴と笹瀬川は?」
『南校舎にいる筈です』
「わかった。西園も気をつけろ。今の理樹は手ごわいぞ」
『わかってます』
 そうして、電話を切る。
「さて、カメラの件の借りはそろそろ返さんとな」
 謙吾はそう言って、不敵に笑った。
 彼にしても、こういう展開は望むところだ。
 一階へと駆け下りる。と、
「うお!?」
「な、真人!?」
 真人と鉢合わせた。
「謙吾かよ・・・」
「ふっ、お前もこっち側にいたのか」
「おう。理樹がわざわざ北校舎に乗り込むってメールくれたからな。これはつまり、決闘だろ?」
 わざわざこっちに来たらしい。
 謙吾はため息をつく。
「真人、お前な。俺達は理樹に見つかったら逃げることしかできんだろうが」
「・・・・・・・・・」
 真人は一瞬硬直して。
「うおおおおおおおおお!?!? そーだったーーー!!」
 謙吾、額に手を当ててため息。
「そういう俺も俺だ。真人とは別チームなのに何でこいつの自爆に忠告しているんだ」
「そーいやそうだよな。恩に切るぜ謙吾」
「恩に着るならとりあえず理樹に捕まってくれ。それで俺達はだいぶ有利になる」
「それ意味ねーじゃねーか!!」
 そんなやり取りを交わしていた二人だったが。
 ほぼ同時に、二人のビーコンが作動した。
「!?」
「来たか!」
 とっさに背中合わせになり、周囲を警戒する。
 だが、警報音はすぐに止まってしまった。
「・・・どういうことだ?」
「ちっ、不気味だぜ」
 互いに気味悪げに周囲を見渡す。
 とりあえずビーコンの作動しないうちは絶対に鬼は近くに居ない。
 ひとまず警戒を解こうとして。
 またしても警報が鳴り出した。
「な!?」
「ちっ」
 また、すぐ止まる。
「いかん」
 謙吾は事の重大さに気づく。
 真人はまだ判っていないようだ。
「な、何だよ?」
「すまんな、真人。教えてやりたいが、今は敵同士だ!」
 言った瞬間、謙吾は真人を軽く押す。
「うお!?」
 よろけて一歩後退。瞬間、真人のビーコンが作動する。
「そっちか!」
 とっさに謙吾は反対側へと駆け出した。
「うお、何!?」
 真人の焦った声が聞こえるが無視。
 駆け抜けようとして。
「くらえ、謙吾!!」
 恭介の声が響くと同時に、目の前一杯にネットが広がる。
「ぬおお!?」
 ぎりぎりで網をかわしきった。
「ちっ」
「恭介、お前いきなり何をする!」
「へっ、手っ取り早く妨害しかけるには相手を動けなくするのが一番だろーが」
「ほほう・・・」
 謙吾は恭介の言葉に笑みを浮かべ、身構える。
「ならば俺が今ここで、お前を叩きのめしても問題は無い、ということだな?」
「おいおい、まじか」
 そんな事を言いつつも、恭介はあくまでも自然体を崩さない。
「けどな、謙吾。こっちは二人だぜ?」
「ふん。ちょうどいいハンデだ」
 後ろから来ている真人を視界に納めるように移動しつつ、謙吾はあっさりと答えた。
「謙吾、てめぇいきなり何しやがる!!」
「真人、謙吾を取り押さえるぞ!!」
「やれるものならやってみろ!」

 1402
 Place:1F in the north schoolhouse
  Kyosuke Natsume & Masato Inohara VS Kenogo Miyazawa
             ...Open Combat!!

 恭介はすぐさまネットを回収する。
 その間に真人が謙吾に相対。
 素手の勝負では真人に有利。
 謙吾はひとまず近くの教室へと飛び込む。
 放課後でもう殆ど人も残っていない教室の掃除用具入れから、ほうきを抜き取った。
「来い、真人!」
「おうよ!」
 突っ込んでくる真人。謙吾は左胴打ちを繰り出す。
 真人は体勢を低くし、右の二の腕を盾代わりに受け止める。
「うおおおおおおおお!!」
「ぬうううううううう!!」
 詰められた間合いに、一歩も引かんとばかりに、互いに体をぶつけ合う。
「真人、下がれ!」
 恭介の指示と同時に、飛んできたのはチョーク。
「ちっ」
 体を捻ってそれを避け、再び廊下へと飛び出す。
 瞬間、ビーコンが反応した。
「くっ、このタイミングでか!」
 とっさに周囲を見渡した謙吾の目に飛び込んできたのは。
「あ、見つけたよ〜!」

 1404
 Place:1F in the north schoolhouse
  Komari Kamikita appeared as a third force!!

「神北だと!?」
 理樹はどこに消えたのか。
「待て、謙吾! ・・・って!」
 謙吾を追って飛び出してきた恭介と真人も、突如反応したビーコンに足を止める。
 小毬は全力で走ってくる。
「行くよ〜!!」
「謙吾、お前は捕まっとけ!」
「こっちの台詞だ!」
 恭介は再びネットを繰り出す。
 だが、予想していた謙吾はそれをあっさりと避けて、敢えて小毬の方へと走り出す。
「ふぇ!?」
「許せよ、神北!」
 手にしたホウキを振りかぶり、
「背中の猫が吼える・・・、んむあああああああああああああああああんん!!」
「ほわぁ!?」
 威嚇に屈した小毬が思わず頭を覆い、その隙に謙吾が駆け抜けようとして。
「おおりゃあああああああああ!!」
「ぐは!?」
 一瞬動きが鈍った隙に、真人のタックルが炸裂する。
「お、おのれ真人、卑怯な!」
「俺だって背後からなんてやりたかねぇよ!」
 二人して横転しつつそんな罵詈雑言をぶつけ合って。
「取ったぜ、謙吾!!」
 恭介が網を放つ体勢に入る。
 小毬が立ち直って、状況を把握しきる。
 瞬間。
 二人の目の前の床が爆ぜる。
「ちっ」
「ほわぁ!?」

 1406
 Place:1F in the north schoolhouse
  Mio Nisizono appeared to reinforcement!!

 踊り場から顔を出した美魚が、またしてもライフルで援護射撃を繰り出した。
「宮沢さん、今のうちに・・・!」
「う、うむ・・・!」
 立ち上がって逃れようとした謙吾の耳に、美魚のビーコンが作動する音が聞こえる。
「しまっ・・・!」
「やっと姿を見せたね、西園さん!!」

 1406
 Place:1F in the north schoolhouse
  Riki Naoe appeared as a forth force!!

「っ!」
 美魚は階段を駆け下りてくる理樹に対して威嚇射撃しつつ、逃れようとする。
「引き際か! 真人!」
「わっわっ」
 恭介の言葉に、小毬がとっさに恭介を追おうとして、
「よっと!」
「ほわ!?」
 恭介の繰り出した猫だまし。
 それに驚いて大げさに飛びのいた、その時に小毬が広げた両手。
 それが、ぺちん、と。
 小毬の傍を駆け抜けようとした真人に当たっていた。
「・・・あ」
 凍りつく恭介と真人。
「な、何じゃそりゃあああああああああああ!!!」
「す、すまん真人!!」
 崩れ落ちる真人に両手を合わせながら、恭介はその場から撤退する。
 そして美魚の方は。
「弾切れ・・・!」
 空打ちしたライフルに愕然とする美魚。
 理樹が突っ込む。
「ぬおおおおおおおおお!!」
 その理樹に対して、謙吾が体当たりを敢行した。
「うわ!?」
 吹き飛ばされて倒れこむ理樹。
「今のうちだ、逃げろ、西園!」
「す、すいません、宮沢さん!!」
 理樹が体勢を立て直す隙に、美魚はその場から逃れきった。
「ああっ、頭脳担当捕まえる大チャンスだったのに!」
「初めから西園狙いだった訳か・・・」
「そりゃね。一番厄介そうだし」
 何にしても、謙吾は理樹に接触してしまった為、失格。




 佐々美チームより謙吾、恭介チームより真人、脱落。
 理樹チーム、佳奈多チーム、共に1ポイント獲得。




 一方、何とか逃れた恭介は、現状を連絡しようと唯湖に電話をかけていた。
「来ヶ谷、無事か?」
『・・・む、恭介氏か。そちらは無事なのか?』
「ああ。だが、真人が捕まった」
『何? ・・・そうか、それは・・・大変だな』
 電話向こうの唯湖の様子がおかしいことに気づいて、恭介は眉をひそめた。
「・・・何かあったのか? クドがやられたか?」
『うむ。まぁ、何というか、その、だな』
 珍しく気まずそうに言う唯湖の電話に、唐突にある声が割り込んだ。
『へーい、ミスターキョースケー! 姉御の身柄はお預かりしましたぜ!!』
「・・・・・・はああああああ!?!?!?」



 時は少々遡って、北校舎で4勢力入り乱れての乱戦と時同じく。

「わふ、メールが来ましたっ」
「うむ、無視するように」
 こちらはクドと共に、南校舎で理樹チームの陣地を探している最中。
 と、階段の踊り場から駆け下りてくる人影。
「うわっ、くるがや!」
「む、鈴君か」
 鉢合わせした相手に、鈴はいきなり逃げ腰だ。
「私もいるのですー」
「クドもか・・・。こんなとこで何してるんだ・・・?」
「うむ。理樹君達の陣地を探している」
 あっさりと答える唯湖。鈴は目を丸くして、
「何だ、まだ知らなかったのか」
「ほう。ということは、鈴君は知っているということか」
 唯湖の言葉に、鈴がとっさに戦闘態勢に入る。
「そう身構えるな。何もせんよ、まだ」
 一応そう言うが、説得力などあるはずもなく。
「ふかー!」
 威嚇された。
 そこで、クドが割り込む。
「あの、鈴さんー」
「ん、何だ?」
「よかったら、教えあいっこしませんか?」
「教えあいっこ?」
「いえすー! 私たちは、佳奈多さんのとこのえんきゃんぷめんとを知ってるのですよー!」
 が、鈴はクドの言葉に疑問符。
「え、えんきゃぷ・・・?」
「うむ、クドリャフカ君は時々、一般英語を超越した単語を繰り出すからな」
「わ、わふ?」
「まぁ、判りやすく言うとCampだ。陣地のことだな」
「なるほど・・・」
 勉強になった、と腕組みして頷いて。
「いいだろう。あたしらもこまりちゃんとこの陣地は判らんままだ」
「交渉成立だな。では、クドリャフカ君」
「はいー、えっとですねー、あやさんのとこは、裏庭にあるのですー」
「そうか・・・。理樹のとこは、ここの二階の」
 鈴がそこまで言った瞬間、突然ビーコンが鳴り出した。
「っ!?」
「わふ!? 鬼さんがいます!?」
「シッ、騒ぐな」
 唯湖がとっさにクドの口を塞ぎ、周囲を見回す。
「おおっと、鈴ちゃん発見だー!!」
「にゃに、はるかか!」
 踊り場から階段が見える位置にいた鈴が、真っ先にターゲットに入る。
「三つ巴か・・・、ふっ」
 鈴がとっさに唯湖達から距離を置き、その間に、葉留佳が駆け込んで。

 1403
 Place:3F in the south schoolhouse
  Yuiko Kurugaya & Kudryavka Nomi VS Rin Natsume VS Haruka Saigusa
             ...Open Com

「おおっと、姉御とクド公までいた! これははるちん大ちゃーんすうううううううえええええええええ!?!?!?」
「ふふふ、いいじゃないか素晴らしいじゃないか葉留佳君、何だこのお団子ツインテールは。こんなにも萌えを理解してくれているとはおねーさん嬉しくて思わず抱きしめてしまったじゃないかふははははは!!」
 鈴とクドの目が点になった。
「あ、姉御姉御あねごー!? 私一応鬼で私に触られたら失格で普通自分から抱きついたりしないんじゃないかなーとか思ったり思わなかったりするんですがって姉御どこ触っていやああ助けて鈴ちゃんクド公ー!!」
 鈴とクドは互いに顔を見合わせると。
「・・・ど、どーしましょう?」
「・・・ほっとけ」
「・・・はい」
 何かもういろいろ投げ出して、二人そろってため息ついて、その場を後にした。
 後には未だに唯湖に過剰に愛でられて悲鳴を上げている葉留佳が残された。
「ふははははははははははは!!」
「いーやー!! おねーちゃんへるぷみー!!」



「・・・・・・つまり」
 顛末を聞いて、こめかみを引きつらせながら、恭介は電話に震える声で。
「三枝の、セー○ームー○かくやのお団子ツインテールに、つい我を忘れて、思わず抱きついてしまった、と、そういうことか・・・」
『・・・・・・うむ、簡潔に言うとそうなる』
「どあほかあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
 まさしく魂の絶叫が、北校舎から響き渡った。



 ちなみに、これに対する一部関係者のコメント。
 R・N君「・・・この展開は・・・、予想しなかったよ・・・」
 K・K嬢「あう・・・、何と言えばいいのか・・・」
 K・F嬢「くっ、私も見たかったのに・・・!」
 M・K嬢「何というか・・・、いろいろそれでいいのですか、あなたは・・・」
 A・T嬢「・・・アホだわ」



 多くの人間に呆れ返られながらも、缶蹴りバトルロイヤル、最終局面は近い。





続く

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