「ごちそうさまでした」
「はい、おそまつさまでした〜」

 パンッ、と手を合わせてそういうと、小毬さんが弁当箱を片付けていく。
 十月も終わりに近い秋の日。
 珍しくまだ温かい天気のおかげで、僕らは今でも学校の屋上でお昼を食べることが出来ていた。

「おいしかった?」
「うん、おいしかったよ。でも、ちょっと味付けかわった?」
「あ、うん。ちょっとお塩減らしてみたんだけど……もしかして薄かった?」
「いや、ただこの前とちょっと味が違ったかなって思ったから。むしろこっちのほうが好きかも」
「そっか、ならよかった。それじゃあー、デザートでも食べましょう」

 そう言って、小毬さんは持ってるバックに手を入れてお菓子を探し出す。
 その横で僕は空を見上げる。
 どこまでも高い空に、うっすらとしたいわし雲がゆっくりと流れていく。
 時折吹く風は少し冷たいけど、ふりそそぐ日差しは暖かくてむしろ心地いい。
 秋晴れのいい日だった。
 そのまま目を閉じて壁に背を預けてリラックスしていると、ふと一陣の風が吹く。

「くしゅ」

 それと同時に、横から小さなくしゃみ。
 目を開けてみると、小毬さんが苦笑しながら口に手をあてていた。

「日差しは気持ちいいけど、やっぱり風が吹くと寒いね〜」
「そうだね。もう少ししたら、屋上にも出られなくなるのかな……」

 まだ暖かい日が続いているけど、もう少ししたらあっという間に冷え込んでくるんだろう。
 そうなったら、流石に屋上には上がれなくなる。

「そうなると、ちょっとさみしいね……くしゅっ」

 もう一度、小さくくしゃみをする小毬さん。
 寒がりな小毬さんは冬服は勿論、中にしっかりとベストを着こんでる上に厚手のインナーも着てるはずだ。
 それでもやっぱり、秋風は少し寒く感じるらしい。
 震えるほど、ってわけじゃないけどたまに腕を抱えたりして体を温めたりしている。

「どうする? もう中にもどろっか」
「え? う、うーん……でもまだデザート食べてないし。それに」

 ちらっ、と何かを訴えるように見上げてくる。言いたいことはすぐにわかった。
 まあ、ここじゃないと中々二人っきりでいられる場所がないし、僕もできればお昼休みは小毬さんと二人でいたい。
 けど、それで我慢して小毬さんに風邪をひかせることはしたくない。

「あ、そうだ」

 唐突に、小毬さんが何かを思いついたように手をパンと打つ。
 そして「えいっ」というかけ声と共に僕のヒザの上に座り込む。

「うわっ」
「えへへ〜、これなら風が吹いても温かいし、二人で屋上にいられるのです」
「もう」

 苦笑しながらも、そのまま小毬さんを受け入れる。
 両の腕はすでに取られていて、肩から小毬さんの前に回されている。
 僕の腕を抱え込んだまま、幸せそうにワッフルをほお張る姿を見てると、こっちも幸せな気持ちになってくる。
 抱え込んだ小毬さんの熱が服越しに伝わってきて、もう時折吹く風も寒くなかった。

「理樹君も一口どうでしか?」
「それじゃあ、もらおうかな」
「じゃあ、はい。あーん」
「えっ、と。あ、あーん……」

 人の目がなくても、やっぱりまだこう言うのは少し気恥ずかしい。
 差し出されたワッフルを一口、かじる。
 甘さが少し控え目な、プレーンワッフルだった。あんまり甘すぎるものよりは、こっちのほうが好きだ。
 小毬さんはもうちょっと甘いものの方が好きらしいけど、僕はほんのり甘いくらいがちょうどよかった。
 けど、一度甘すぎる事で有名なワッフルを食べに行った時は流石に
「こ、これはさすがに無理〜」
 ってギブアップしていたけど。

「おいしい?」
「うん」

 僕が食べた後に、小毬さんもまた一口。再び幸せそうな笑顔になる。
 おいしそうにワッフルを頬張る小毬さんをみてたら、ふと悪戯心が湧きあがってきた。
 もふもふと動く、小毬さんのほおを見ながらなんとか自制心を働かせてみたけどすぐに好奇心が勝った。

 ちょこん、とたまに小毬さんがするように人差し指を立てる。
 目の前にある指が動いたからか、小毬さんの視線がそっちにいって、ついで僕の方へと向かう。
 その隙に、僕は小毬さんのやわらかそうな頬をその指でつっついた。

「ほわっ!?」

 突然のことに驚いた小毬さんが声を上げる。
 その拍子に落としそうになったワッフルを左手で受け止めながら、もう一回。

「ほわわっ」

 うん、これは……

「ちょっと面白いかも」
「ふ、ふえええええ!? ふにゃ、ほわあっ!

 ふにふにと、やわらかい小毬さんの頬をつつく。
 突っつくたびにかわいらしい反応が返ってくるのがおもしろくて、中々やめられそうになかった。
 すべすべの頬は柔らかくて、いつまでも触っていたくなる。

「はう、り、りきくん何するの〜!」
「いや、何か見てたらつい」
「つ、ついって……そんな理由で」
「えいゃわっ!」

 抗議の隙をついて、もう一度。
 かわいらしい悲鳴をあげながら、半分涙目でじたばたする小毬さんを上手く抱きしめたまま、頬をつっついてしばらく遊ぶ。

「ぷにぷに〜」
「ひゃうっ! り、りきくんくすぐったいぃ〜」
「あはは、ごめんごめん」
「もうっ!」

 しばらくそうした後、さすがにつっつくのをやめるとぷいっと小毬さんはそっぽを向く。
 腕はしっかりと捉えられていて、もう悪戯ができないようにされている。
 ぷくーっと膨れた小毬さんがかわいくて、つい笑みがこぼれてしまう。

「いぢわるだよ、理樹君……どーしてこういうことするかなぁ」
「だからごめんって。なんか可愛かったからつい」
「もー、そんなの理由になら……ふぇ!? か、かかかわいい!?」

 言ってる途中でぼんっ、と顔が赤くなる。
 顔を真っ赤にして驚いてテンパって、そしてふにゃっとした笑顔になる。
 「えへへ〜」と腕を抱えられたまま笑顔で見上げられる。
 僕も同じように笑って心もち強く、小毬さんを抱きしめる。
 ああ、きっとはたからみたらバカップルに見えるんだろうなぁとか考えるけど、今は人目がないから問題ない。
 幸せな気分に浸りながら、僕達は予鈴がなるまで屋上でそうしていた。
















おまけ




「ふぇええ、遅れる〜!」
「ちょっとのんびりし過ぎたかも」

 既に予鈴のなった校舎を少し駆け足気味に教室へ戻る。
 屋上で二人っきりでいれたのはよかったんだけど、あの後お菓子も片付けずにのんびりとしてたらこんな時間になってしまった。
 まさか屋上でまったりしていたから遅れました、なんていえるはずがない。
 もう廊下にいる人は殆どいなく、居ても僕たちみたいに急いで教室に戻る生徒ばかりだ。

「あ、そうだ」

 並んで走ってた小毬さんが突然そういって立ち止まる。
 釣られるように僕も足を止めるけど、当然止めてる暇なんてない。時間を確認しながら、小毬さんを振り返る。

「理樹君」
「どうしたの小毬さん。あんまり時間な――」
「ちゅ」

 突然名前を呼ばれたと思ったら、ほおに柔らかくも暖かい感触。すぐ真横には小毬さんの顔が……って!

「こ、こまりさん!?」
「えへへ」

 驚いて声を上げる僕をよそに、すでに小毬さんは再び走り出していた。
 少し頬を赤く染めながら、いたずらを成功させた子供みたいに微笑みながら振り返る。

「さっきの仕返し、だよっ」

 そういって「ほら、急がないと遅れちゃう」と急かしながら小毬さんが先に走っていく。
 慌てて僕も走り出す。
 なんていうか、敵わないなぁと思った。

「ほわっ!?」

 コレで最後にオチがつかなきゃきれいだったんだけど……





あとがき



主題なし! ただ理樹と小毬が屋上でいちゃつくだけのお話になってしまいました。
珍しく理樹側が攻めっぽい感じになってますね〜。
あたし的には、どっちかといえば小毬攻め、理樹受けでリバありが好みなんですけど……あ、リバありならおっけーですね。
まぁ今回リバしたのはこまりんのほうでしたけど……w

……でもちょっと水瀬名雪が入った感じになっちゃいましたね、コレ。



プロットも構成も考えずにやったんですが、こんなのでもりきこま成分は補給できたでしょうかほしさん!




らいてぃんぐ ばい・なぞのひと(ばればれ)













ほしの蛇足コメント
手記に「りきこま成分枯渇中・・・」とだけ書いたところ(当時はマジで飢えてました)、送って頂けたSSです!
あれですね、「あなたの優しさに全俺が泣いた!」というのでしょうか、こう言う時って・・・。
冗談抜きで頂いたときはそんな気分でした、はい。
何度も重ねてますが、ありがとうございます、なぞのひとさん!(ぇ

そんな謎に包まれたこの方のベールの向こう側を、どーっしても見たい人は、こちら
ぜひ感想をお届けしてあげてください!
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