世にもピンポイントなおまじない、というものが存在する。
 具体的にいうと、知る人は知る、あれである。
 『体育倉庫に、意中の人と閉じ込められるおまじない』
 10円玉二枚を縦に重ね、共に閉じ込められたい人の名前を思いつつ、それを崩すという、難易度の凄まじく高いあのおまじないである。
 これは、そんなおまじないを知った、とある生徒の話。
 プライバシーのため、その生徒の呼称は『K』とさせてもらう。

 彼女がそれを知ったきっかけは、彼女が所属するグループの一人、様々なジャンルのある本の中で、ミステリを二番目に愛する少女が、気まぐれに読んでいた本からだ。
「そもそも、成功確立が低すぎます。試してみたい気持ちも多少ですがありますが」
 彼女がこのおまじないに対して言った言葉である。
 真に冷静な意見である。
「うーん、私は一枚立てることもできないよー」
 同席していた同じグループの一人、幸せスパイラル理論で有名な少女の意見。
 しかし、Kは諦めなかった
 1枚は軽くこなせた。手先の器用さには自信があった。
 だが、2枚目に難航した。
 結局その日はできずじまいだった。
 翌日。
 授業もそっちのけで、自らの机に10円玉を2枚縦に重ねようと試み続けた。
 心配して声をかけてくれた思い人の言葉すら届かない。
 ただ、一心にそれを重ねようと試み続けたのである。
 その瞬間は、唐突に訪れた。
「・・・できた」
 思わずそんな言葉が漏れてしまうほどに、唐突だった。
 周りでは同じグループの仲間たちが新聞紙を剣代わりに遊んでいる。
(さて、そういえばどうしてこれをしていたのだろう)
 手段にこだわり過ぎて本来の目的を失念してしまった。
 周囲を見渡して、意中の人を見つけ、目的を思い出す。
(そうだ、私はおまじないを)
「くらえー! (プライバシーのため、個人名称規制)まっくすぱわーぶれーどっ!! かたじけのーござるー!!」
「ほわぁ!? むねんなりぃぃ」
「かたじけのうござる」
「うわー、むーねーんーなーりー」
(しかし、いざとなると・・・。複数はだめなのだろうか?)
「むむむ、あー、(プライバシーのため以下略)! 後ろに宇宙人が!!」
「かたじけのうござる」
「あー!? むねんーなあありいいい」
(・・・いや、宇宙人などあらわれるはずがないだろう。もしいるのなら会ってみたいものだが)
「ほわっ!?」
 ちゃりーん
「うわ、(プライバシー略)、大丈夫か!?」
「う、うんー。あ、『K』ちゃんごめんねー。なんともない?」
「いや、問題ない・・・。む?」
 改めて机の上を見る。崩れていた。苦労して立てた10円を縦に重ねたものが。
 さて、自分は崩れた瞬間、何を考えていただろうか。思い返して。
「・・・・・・・・・・さて、どうしたものか」
 珍しく、震えた声が飛び出した。

 これはあれだろうか。
 彼女がこのおまじないを利用し、薄暗い密室でかわいい美少女たちとしっぽりむふふなどと考えてしまった報いだろうか。
 それよりなにより、彼女はこれから誰と閉じ込められようとしているのか。

 真相は『K』女史のみが知ることにしておこう。

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