昼休みの屋上。鈴も含めた三人で屋上に上がってご飯を食べて。
 鈴が飲み物買ってくるといって席をはずして。
 残った僕と小毬さん、二人でのんびり座って待ってた。
 それで、ちょっと暇だなー、と思っていたら、隣で「んーっ」と伸びをしている小毬さんがいた。
 ちょっとちょっかい出してみたくなった。
 うん、それ以上の意味は無い。

 つん。

「ほあひゃあああ!?」
 ・・・うわ、なかなか愉快な悲鳴が飛び出した。
 

「な、何するの理樹君・・・!?」
「いや、つい」
「つ、ついでいきなり首突っつかないでー」
 あ、何か涙目。
 やばい。可愛い。
「ごめんごめん」
「うー・・・」
 うなり声を上げながら、小毬さんが力を抜く。
「隙ありっ」
 つん。つん。
「ひひゃやあああ!?」
 ・・・や、やばい。可愛い上に楽しい。
「り、りきく、ひゃああああぁぁぁ」
 どうやら小毬さんは、首の後ろを突っつかれるのが非常に弱いらしい。
「く、くすぐったいよ、や〜め〜て〜・・・」
「ごめん、だめ」
 即答。
「ふええええ!? や、お願い、待って、りきく、やああぁぁぁ」
 僕の手を止めようとして、首つつかれて逆に脱力して、座ってる僕の膝の上に倒れこむ形に。
 しかもうつ伏せ。
 うわ、何ていうベストポジション。
「り、理樹君、今なんか、きゅぴーんって聞こえた!?」
「気のせい気のせい」
「うぁぁぁぁん、気のせいじゃないぃぃぃい」
 つん。
「やあああぁぁぁ・・・」
 また小毬さんの悲鳴。
 瞬間。
「あいった!?」
 僕の頭の上に何かが当たった。ごんって。
「理樹、こまりちゃんいじめるな!」
「あ、鈴」
「り、りんちゃぁぁぁぁん」
 力が入らないらしい小毬さんが、救いの主が現れたとばかりに鈴の名を呼ぶ。
「何してるんだ、お前」
「・・・鈴、ちょっとちょっと」
「何だ?」
「ここ、つんっ、ってやってみて」
「ここって、こまりちゃんの首あたりか?」
「ひぁ!? や、やめてりんちゃ」
 つん。
「ひゃああああああああ!?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 鈴、びっくりしてるな。
 あ、また。
 つん、つん。
「や、待って、ひゃああ!?」
 鈴はそこで動きを止めると、ゆっくりと僕を見上げてきた。
「理樹。あたし、おかしい」
「何が?」
「何か、凄い楽しい」
「うん、実は僕も」
「わ、わたしはたのしくなはいいいいいい」
「理樹はさっきからこれやってたのか」
「うん」
「・・・・・・あたしもやっていいか?」
「よしきた」
「り、りんちゃあああああああああああああああん!?」
 小毬さんの救世主、悪魔(僕)の誘惑にあっけなく陥落。


 十分ほど後。


「ふえええ・・・」
「うん、堪能した。面白かった」
「そうだねー」
 やつれた感のある小毬さんと、妙につやつやした感じのある鈴がやたら対照的だ。
 多分僕も鈴と似たような顔してるんだろう。
「・・・ううう・・・」
 珍しく恨めしそうな顔をしている小毬さんを見て、僕はさらに悪戯心。
「そういえば、弱いところといったら」
「何だ?」
「鈴はわき腹弱かったよね」
「!?」
 鈴が驚いて僕から飛びのく。
 何で知ってるかって、そりゃ幼馴染だしね。
「り、理樹、あたしに何する気だ!?」
「いや、たぶんやるのは僕じゃない」
「りーんちゃん、つーかまーえたー♪」
「にゃにぃ!?」
 気づかれないうちに鈴の背後に回って抱きつくとか、いつもの小毬さんからは信じられない素早さだ!
「そっかー、りんちゃんは脇腹が弱いんだ〜」
「り、理樹! こまりちゃんが怖いぞ!?」
「がんばれ、鈴!」
「理樹の裏切り者ー!! ふにゃああ!?」
「あ、ほんとだー。つんつんー♪」
「にゃああ! や、やめろこまりちゃ、ふにゃあ!」
「うわ、どうしよ、楽しくなってきちゃったよ〜」
「ご、ごめんこまりちゃん! あやまるから、助け、みゃあああああ!!」
 うーん。悲鳴まで猫っぽいな、鈴。


たっぷり十分。


「し、死ぬかと思った・・・」
「あー、面白かった〜」
 先ほどとは対照的な表情の二人。
「・・・りきぃ・・・」
 あ、鈴が物凄い恨めしそうな顔してる。
 流れ的に、やっぱ、僕?
 でもね、鈴。それには致命的な穴があるんだよ。
「こまりちゃん、理樹の弱点は足の裏だ!」
「了解だよー! 理樹君、おかくご〜!」
 と言った所で、鈴が気づいて硬直。
「卑怯だぞ理樹! 上履きじゃないか!」
「残念でした♪」
 しかも立ち上がってしまえば簡単には脱がせられない。
 僕の安全は揺るがないよ。

 と、思ってた。今この瞬間まで。

「理樹君げっとだよ〜!!」
「て、うわ!?」
 まさか、真正面から小毬さんが飛びついてくるとか!
 不意打ちだったし、そのまま当然、尻餅ついて。
「ナイスだこまりちゃん!」
「やっちゃえりんちゃんー!」
 鈴に即座に足を取られた! あ、靴、何でそんな手際いいの君ら!?
「よーし、理樹覚悟! こちょこちょこちょー、と」
「ちょ、待って、鈴、うひゃあああああああ!?」
「わ、理樹君もやっぱり可愛い〜」
「う、うれしくないー!!」


 同じく、たっぷり十分やられました・・・。


 因果応報ってほんとにあるんだなと思った屋上のひと時。
 ・・・大げさかな?

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