グラウンドのど真ん中。
理樹は5メートルほど離れた位置にいる恭介と睨み合う。
互いの手には同じ得物。
奇しくも同じ武器を引き当てた。
「…っ」
風が吹き抜けていく。
周囲を取り巻くギャラリーも沈黙で見守る。
最初に動いたのは、恭介。
緩やかな動きで、得物を起動させる鍵を、右手に握る。
理樹もまた、右手にある鍵を握り締めた。
性質は、理解している。
型は簡素なタイプだ。
だが、それは相手も同じ。
理樹はゆっくりと、横に足を滑らせた。
恭介もまた、同じように足を滑らせる。
間合いを保ちながら、ゆっくりと、円を描くように。
唐突に。
緊張感に耐えられなかったのか。
誰かが、唾を飲む音が、妙に大きく響いた。
瞬間。
恭介が走る。
左手に抱えられたものに、カギが打ち込まれた。
無数の鍵穴から選び取ったそれは、正解の鍵穴。
左手に抱えられたそれから、弾丸が打ち出される。

青ヒゲという名前の、弾丸が。

「っ」
身をかがめ、それを避けた。
恭介は足を止めず、理樹の後ろに飛んでいった青ヒゲを追って、理樹とすれ違う。
彼が背を向けた一瞬を、理樹は見逃さない。
理樹の手の内にあるタルの、ナイフを打ち込む穴に、躊躇いなく理樹は小さなナイフを叩き込んだ。
理樹の青ヒゲが飛び出し、恭介の背中を襲う。
が、恭介は振り向きざま、左手のタルで弾丸と化した青ヒゲを打ち落とした。
理樹はすぐさま跳ね返された青ヒゲに駆け寄り、掠め取るように拾い上げる。
その時には恭介もまた、自分の青ヒゲを確保し、構えている。
青ヒゲの簡素なタイプは、次に刺せば飛び出す穴を見切る方法がある。
理樹も恭介も、それを知っている。
だから、この武器にナイフを打ち込めば100%、打ち出される。
再び対峙する二人の間を、砂塵が舞っていく。
今度は、理樹から動いた。ジグザグにフェイントを入れつつ、恭介に迫る。
恭介は敢えて間合いを詰めず、バックステップでそこから離れる。
互いにいつでも打てるように添えていたナイフに、最後の力を込める。
ほぼ同時に打ち出された青ヒゲは、理樹の左肩を、恭介の右脇腹を打つ。
「っ」
「ちっ」
自分に当たった青ヒゲをすぐさま拾い上げ、互いに、自分のタルの中に再び叩き込む。
既に数度、この交差が続いている。
「ぉおおおお!!」
恭介が吼えた。全力で突っ込んでくる。
左腕を前に突き出し、青ヒゲが装填されたタルを構えて。
(避けて、頭に打ち込む…!)
恭介がナイフを叩き込む瞬間を見切るために、理樹はギリギリまで動かない。
恭介の右手が、動く。
ナイフが、打ち込まれた。
瞬間、理樹は左にステップして突進を避け、自分の青ヒゲにナイフを突き立てる。
飛び出した青ヒゲは、恭介の後頭部をわずかに逸れた。
(しまったっ!)
逃してしまった、千載一遇のチャンス。だが、どちらも回収のターンがあるはず。

はず、だった。

なのに恭介は、拾いに行くどころか、そのまま理樹に向き直る。
その左手には、青ヒゲの収められたままの、タル。
(撃ってない!?)
恭介は、わざと外れの穴にナイフを打ち込んでいた。
発射率100%。その読みを、わざと外して。
そのとき、やっと気づく。
逸れたのではなく、読まれて、避けられていたことに。
「お前の負けだ、理樹!!」
スローモーションのように、見えた。
打ち込まれるナイフ。飛び出す青ヒゲ。

カツン・・・!

プラスチック同士の跳ね返る音が響く。
誰もが決まったと思った瞬間の、全く別の音。
まだ、諦めていなかった。
理樹は、自分のタルの角で、青ヒゲを打ち上げていた。
恭介の撃った青ヒゲが、理樹の頭上をゆっくりと舞う。
理樹の右手がそれを空中で掴み、タルに叩き込む。
「うあああああああ!!」
撃ったまま体勢を戻していない恭介に、理樹は突っ込む。
「くそっ」
間合いを取り直そうとするが、一挙動遅れた。
その遅れで、理樹が恭介の懐に飛び込む。
回避できない。そう悟った恭介は、タルで頭をガードする。
必殺のポイントを守られた。
だが、理樹の狙いは、

はじめから、そこじゃない。

「僕の勝ちだ、恭介!!」
叩き込まれたナイフ。
放たれた青ヒゲ。
それは。
恭介の、脛、弁慶の泣き所を捕らえた。
「っ!?」
予想もしなかった痛みに、恭介は思わず膝を突く。
そして、それは同時に。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
周囲から歓声。
そう。
未だ立っている理樹が、勝った、勝者だ、ということ。
「・・・やられたぜ、理樹」
「強かったよ、恭介は」


「でも、恭介の称号は『(21)』だからね」
「ちっくしょおおおおおおおおおお!!!!」

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