「理樹、こまりちゃん!」
「うわ、どうしたの鈴?」
「鈴ちゃんどうしたの?」
 女子寮まで小毬を送って行ったら、何か大慌てで鈴が飛び出してきた。
「よかった、ちゃんと帰ってきたんだな!」
「は?」
「もう、すっごい心配した。くちゃくちゃ心配した!」
「・・・あの、鈴ちゃん、何かあったの?」
「理樹いいいいいいいいいい!!」
「って、恭介まで」
 というか、バスターズのほぼ全員が集まってきた。
「な、何? 何でみんなそんな大騒ぎしてるの?」
「わ、私たち何かしちゃいました!?」
 状況が全く不明。恭介は頭を掻いて、
「い、いや、真人の奴が、理樹が家出したとか言い出してよ」
「・・・は?」
「だ、だってそうだろ!? お前着替えかばんに突っ込んで慌しく出て行ったじゃねぇか!」
「俺も半信半疑だったが、真人とのルームメイト生活に耐えられなくなったのかと・・・。だが理樹、逃げ出すならまず真っ先に俺を頼れ!!」
「・・・いやいやいや」
 真人と謙吾のよくわからない論理展開に、理樹は定番のセリフでしか返せない。
「そしたら、こまりちゃんも着替え持ってどこかに行ったってささこが言いだしたんだ!」
「わたくしは神北さんが家出した、なんて言った覚えありませんわ!? 言い出したのは棗さんでしょう!?」
「ささこが紛らわしいこと言うからだ!」
「・・・ど、どーしてそうなっちゃうのかなぁ・・・?」
 鈴と佐々美のやり取りに、こちらは置いてけぼりにされてしまっている小毬。
「全く、直枝や小毬さんが家出なんてするわけないでしょうに。一日焦って探し回ってたのよ、皆」
「何他人事みたいに言ってるのよ、佳奈多は。小毬が出て行ったって聞いたとき、焦って寮会の管理表ひっくり返してたじゃない。何か手落ちでもあったのかーって」
「な、何であやがそれを知ってるのよ!?」
 真っ赤になってあやに食って掛かる佳奈多に対して、その妹がにんまりと笑う。
「おねーちゃんも慌てん坊だねー」
「そういう葉留佳君は全く逆の方向で突っ走っていたようだがな」
「いやー、あれ中々のデキだったでしょ、姉御?」
「わ、わたしはこれを信じそうになりました・・・」
 クドの差し出してきたチラシを、二人で覗き込む。
「・・・直枝理樹、神北小毬、何と駆け落ちか。時を同じくして姿を消した二人の行方は」
「ええええええ、か、駆け落ちって、えええええええええ!?」
 半目になって「何だこれは」という思いを満面に乗せて言う理樹と、真っ赤になって焦りまくる小毬がやたら対照的だ。
「葉留佳君が作ったものだ。クドリャフカ君が慌てる姿が大変可愛らしかった」
「わふー・・・、気づいてたのなら止めてほしかったのですー」
 消沈しているクドを見て理樹はため息。それから全員見回して、
「で、冷静に事を見守ってたのは何人くらいなの?」
「・・・私と来ヶ谷さんだけですね」
 みゆきが疲れた顔で言う。
「皆さんずっと明後日の方向に迷走されて・・・、来ヶ谷さんは笑いながら見ているだけで・・・。直枝さん、今度から絶対行き先を残していってください」
 どうやら、今日はみゆきが突っ込み役として奔走させられてしまったらしい。
 思いっきり憔悴している。本日の貧乏くじ確定。
「あやさんは机でピラミッドとか作ろうとするし、美魚さんは妄想の世界に行ったまま戻ってこないし、クドさんは葉留佳さんのデマチラシを信じ込んで大慌てだし・・・」
「だ、だって地下迷宮にいるのかと思ったから・・・」
「直枝×神北。王道ですがアリです。駆け落ちとは・・・今度本にして見ましょう」
「わふー・・・、ご迷惑をおかけしました・・・」
「鈴さんと笹瀬川さんは小毬さんの家出疑惑でケンカをはじめるし、宮沢さんをはじめとした男性陣も直枝さんが家出したと聞いて消沈して三人で部屋に閉じこもるし」
「だから、あれはささこの紛らわしい言い方のせいだ!」
「あなたが勘違いしたからでしょう!? あとさ・さ・み、ですわ!」
「すまん古式、一言もない・・・」
「元はと言えば真人、お前がたいした状況も確認せずに言うからだろ!」
「な、恭介今更それ言うのかよ!?」
 どんなカオスだ。
 理樹は頭を抱え込んだ。
「で、理樹に小毬。お前ら今日どこに行ってたんだ?」
「あ、はい。スケート行ってました」
 頭痛で呻いている理樹に変わって、小毬が恭介に答える。
「・・・あー、それで着替え要ったのか。やっと納得したぜ」
 恭介は腕組みしてうんうんと頷く。
「というか、何でそういう方面に突っ走っちゃったのか・・・」
「そう言うなよ。俺だって不思議なんだから」
 手綱を取れる人は他にいないのか、と小一時間説教したくなった理樹である。
「しかし、スケートか。俺も何年か行ってないな」
「ふむ。そういえばおねーさんやったことが無いぞ」
「雪国育ちですが私もやったこと無いのです」
 口々に興味を示す発言が飛び出し、理樹は小毬と顔を見合わせる。
 笑いあった。多分、同じことを考えている。
 だから。

「「だったら、今度は皆で行こっか?」」

 二人だけでも楽しいけど、仲間たちがいたらまた別な意味で楽しいから。




























「あ、でもとりあえず今夜は古式さん意外全員お説教! どんな誤解だよそれ!」
「「「「「「「「「「えええええ!?」」」」」」」」」」
「はっはっは。私は楽しかったぞ理樹君」
「今日は直枝さんを尊敬してしまう一日でした・・・」
「ゆいちゃんも、間違ってる人を放置しちゃったらだめだよ〜」
「ぐは・・・、だからゆいちゃんはやめろと・・・」
 

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